産業クラスター計画のこれまでの成果として、「顔の見えるネットワーク」の形成が強調されています。本稿では、現状のネットワークの特徴と課題を指摘し、今後のネットワークの拡充の方向性について述べていきます。
産業クラスター計画第T期の最終年度(平成17年度)における、全国19の産業クラスター・プロジェクト(以下、「プロジェクト」)への参画者は企業約9,800、研究機関約290に達しました。前年度は企業約6,000、研究機関約250であったことからも、産業クラスターのネットワークは勢いよく拡大していることがわかります(平成16年度から17年度における参画者数の増加は、平成17年度に「拠点事業」が開始された影響が大きい)。産業クラスター計画の立ち上げ期である第T期においては、まずネットワークの拡大に重点が置かれたため、各プロジェクトは参画者の増大に注力することとなりました。事実、参画者によるプロジェクト評価では、プロジェクトによる「情報提供」活動及び「ネットワーク形成」活動が高い満足度を得ているのです。
一方、参画者の増大は、これまでにみられなかった多様な地域プレーヤー間の連携実現の契機となった半面、いくつかの課題も生みました。(1)積極メンバーと消極メンバーの参画格差を生んだ、(2)不特定多数の集団となったために事業アイデアを交わしにくく、連携が難しくなった、(3)メンバー数が増えた割にはメンバー構成の多様化は進まず、研究開発機能を有する製造業に偏った構成となった等です。上記3点について以下に述べます。
拠点事業 : 正式名称は「広域的新事業支援ネットワーク拠点重点強化事業」。各地域でクラスターの核となりうる産業支援団体・大学等を「拠点組織」として支援し、自治体や大学等と連携して地域で活動を行う中堅・中小企業のネットワークへの参加を一層促進することを目指す事業。
「平成17年度産業クラスター計画モニタリング等調査」(弊社受託調査)では、参加者数が多いプロジェクトほど、連携やイノベーションを活発に創出しているわけではないことが明らかになりました。プロジェクトに主体的かつ高頻度で参加する「コアメンバー」とそれ以外のメンバー間の活動レベルの差異は想像以上に大きく、コアメンバーの多いプロジェクトほど、連携やイノベーションの創出を活性化させている傾向が示唆されたのです。
第U期においては、参加者の量的拡大以上に、その質的充実が重視されるようになるでしょう。新規事業が絶え間なく創出されるネットワークの形成のためには、参画レベル、活動レベルが高いコアメンバーの集積をいかに形成していくかが大きな鍵となっているのです。
こと事業化に関しては、不特定多数の参加によるオープンなグループよりも、同じ目的意識を持ち、メンバー同士が相互信頼関係にある限定したクローズな環境の方が適している場合が多いと言えます。この事実を受け、各プロジェクトでも、(1)具体的な研究テーマや事業テーマを設定し、共通の関心を持つ少人数のメンバーから成るグループを形成し、継続的かつ頻繁な交流を実現する、(2)既にグループ活動に参画しているメンバーの紹介により新規メンバーを増やしていく等、信頼関係を重視したグループ形成に努めるようになっています。
今後も、セミナー、シーズ発表会等の交流促進段階や、研究会等の事業化促進段階において「テーマ設定&少人数&セミクローズ型」が採用されることが多くなっていくでしょう。
前稿で第T期では「技術開発促進モデル」の確立に重点が置かれたと記しました。そのような経緯により形成された現状のネットワークは、その構成員に研究者及び研究開発機能を有する企業(とりわけ製造業)が多いという特徴を持ちます。すなわち現状のプロジェクト構成メンバーは、研究開発、製品化等の川上工程における能力は高いものの、資金調達能力や販路開拓能力等の川下工程が弱い傾向が否めません。これを受け、各プロジェクトでも、金融機能やマーケティング・販売機能を有するメンバーの参画を拡充し始めていますが、製造業者が研究開発成果としてあげてきた新製品に対して、金融・流通側のメンバーが関心を示さない状況も多々見られています。
今後は、市場を意識した製品開発を促進させるため、研究開発段階から金融・流通等のメンバーを参画させる事例が増えていくでしょう。特にその際には、現状のオープン型での参画形式を改め、強い関心と熱意を示す金融、流通等担当者を、各研究会等に引き抜き参加させる等のクローズ型の仕組みを構築することが望ましいでしょう。
新規事業創出を至上命題とする第U期において求められるのは、事業創出の苗床となり、イノベーションを次々と生み出していくための「ネットワークの高質化」です。そのためには、(1)クラスター・コアの育成・強化と、(2)ネットワークの多様化を両輪として、バランスよく展開していくことが必要です(下図参照。第U期では、(3)ネットワークの拡大の重要性は相対的に低下すると思われます)。コアメンバーの増加はプロジェクト全体の活動レベルを高めます。このコアメンバーと、販路等新たな川下工程のメンバーとの連携を促進し、事業を生み出すネットワークへと昇華させていくことがより重要となっていくでしょう。
※次回は、「推進体制・機能の整備」についてです。