株式会社リベルタス・コンサルティング

産業クラスター発展の方向性(上)…新規事業の創出

産業クラスター計画、第二幕へ

経済産業省が平成13年度から展開している産業クラスター計画は、平成17年度にその第T期(クラスター立ち上げ期)を終えました。第T期においては、全国19の産業クラスター・プロジェクト(以下、「プロジェクト」)において、約9,800の企業、約290の研究機関が参画する「顔の見えるネットワーク」が形成されました。このネットワークを苗床に、産学連携・産産連携による新規研究開発や事業開発が生じており、産業クラスター計画は地域経済活性化に向けた中核施策として位置づけられるに至っています。

平成18年度スタートの第U期(クラスター成長期)への移行を目前にした今年3月、産業クラスター計画の中期計画及び各プロジェクトの個別計画が公表され、計画の重点が「ネットワーク構築」(第T期)から、「新規事業創出」(第U期)へと移行することが明確にされました。すなわち、(1)各プロジェクトから生み出される新規事業を量的に拡大していくこと(新規事業の創出)及びそれを実現する基盤環境として(2)第T期で形成されたネットワークをさらに質的に高めていくこと(ネットワークの高質化)が至上命題とされています。

弊社では、「産業クラスター計画モニタリング等調査」等、産業クラスター計画に関する現状評価及び計画策定に関わる調査を経済産業省・局から受託しております。本稿ではこれらの経験を踏まえ、産業クラスター計画の成果と課題、今後の発展方策等について考察していきます。第1回及び第2回にて、「新規事業の創出」、「ネットワークの高質化」という産業クラスター計画第U期における2大テーマへの取組の方向性について、また第3回にて、そのための推進体制・機能整備の今後について考えを述べていきます。今回は新規事業創出に向けた現状と将来像についてです。

第T期にて、技術開発推進モデルが確立

弊社では、産業クラスター計画第T期の最大の成果は、「情報入手→交流促進→プロジェクトメイキングと事業化検討→技術開発プロジェクト採択による研究開発及び事業化資金の獲得」へと至る一連のフローを「成功モデル」として確立し、プロジェクト参画メンバーがそれを認知したことにあると分析しています。プロジェクト推進側からすれば、提案公募型実用化研究開発事業(注1)という資金を核に、セミナー、交流会、分科会、研究会等の施策をパッケージ化し、これらを地域の企業や研究者による技術開発推進フローに組み込み、「技術開発推進モデル」として確立・定着させたことと言えます。前述の「産業クラスター計画モニタリング等調査」によると、プロジェクトに参画した企業の約3割、研究者の約4割が、プロジェクト参画が新たな研究開発に結びついたと回答しており、このことを裏づけています。技術開発推進モデルは、特にバイオ等の研究開発の優劣が事業競争力を左右する産業分野において威力を発揮しました。

提案公募型実用化研究開発事業 : 提案公募型実用化研究開発事業:地域新生コンソーシアム研究開発事業、地域新規産業創造技術開発補助事業、創造技術研究開発事業、中小企業・ベンチャー挑戦支援事業のうち実用化研究開発事業等の総称。

事業化推進モデルが確立しなければ、産業クラスターは失速

一方、プロジェクト参画企業のうち、新製品開発に達したのは2割弱、売上計上に達したのは1割強にとどまっています(「産業クラスター計画モニタリング等調査」)。また、提案公募型実用化研究開発事業採択案件の事業化率は3割程度とも言われています。事業化や売上計上へと結びつけることができた「第一陣」の企業は未だ多数とは言い難く、今後、第二陣、第三陣のテイクオフが必要です。事実、前述の技術開発推進モデルは、技術開発よりもビジネスモデルが重視されがちなIT分野等においては奏効していません。技術開発の成果を事業化に結びつける仕組みを確立できるか否かが、今後のプロジェクト発展を左右する要点と言えます。

非常に単純化すれば、第T期で重点的に行われたことは、大学等の研究シーズを基に、産学官連携により、事業化に向けた研究開発を推進することと言えるでしょう。そのため、プロジェクトに対する評価は企業よりも研究者において顕著に高く、「産業クラスターは大学の活性化に使われている」との批判も一部で見られています。中期計画で示されている通り、第U期においてどれだけ事業を創出していくことができるかという点に、産業クラスター計画の真価が問われてきています。

新たな推進体制・手法により新モデルへ対応

現在高い評価を得ている「技術開発推進モデル」は、不特定多数の参加者に、セミナー、研究会、研究開発資金等の「規格型」のサービスを提供することで、有力な事業化シーズが自ずから選別されていく「マス型」であるのに対し、今後求められる「事業化推進モデル」は、個々の事業化プロジェクトに対し、「個別型」の対応を行う様相が強い「One2One型」と言えます。また、例えば重要性が増している販路開拓、資金調達活動をみると、現状提供されているサービスは、見本市・フェア、シーズ発表会、マッチング・セミナー等、関係者を集めて、その中から条件に合う企業等が出現するのを待つ「プル型」が多いですが、今後は、有望な事業化シーズを特定の大都市圏企業に売り込み、商談を取り付ける等の「プッシュ型」のサービスも重要となってくるでしょう。

上記の局面変化を迎え、各プロジェクトでは「個別型」「One2One型」「プッシュ型」に対応できる推進体制・手法を整備する必要があります。現状のクラスター推進・拠点組織及び経済産業局の職員を中核とした体制では、量的、ビジネススキル的の両面からこれらの活動を充実することは難しいと思われます。事業構築、事業評価、資金調達、販路開拓、プロデュース等の機能を有する地域内外のコーディネーター等の参画を促し、その機能や権限を強化することが早道です。

産業クラスター計画これまでの成果と今後の課題
産業クラスター計画これまでの成果と今後の課題

第T期では、いち早く「技術開発推進モデル」を確立した北海道バイオクラスターが、成功例として知名度を上げ、その評判が地域企業等の参画意識を高め、さらなるネットワークの緊密化につながる好循環がみられました。第U期では、「事業化推進モデル」を確立するプロジェクトが全国の先陣を走ることになりそうです。

※次回は、「ネットワークの高質化」についてです。

2006年9月15日
中野 浩介(なかの・こうすけ)
※本稿は執筆者の個人的見解であり、弊社の公式見解を示すものではありません。
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