株式会社リベルタス・コンサルティング

受け手との共有を目指して(インタビュー:建築家 大成優子さん(3))

「いかに自発性を引き出すか」が、様々な局面で求められている。企業では、市場競争の激化などを背景に、会社に「依存」する人材ではなく、高い意欲をもって仕事に取り組める人材を育成・獲得しようとしている。市場では、消費者の購買意欲をいかにひきだすかという課題が生まれている。地域社会では、地方の自立にむけて、商店街の活性化、新しいコミュニティのあり方など、意欲ある地域社会のあり方が模索されている。 人の自発性や意欲を引き出すには、「伝える」「ひきつける(惹きつける)」「揺さぶる」「動かす」の4つのプロセスが重要となる。では、どのようにしたら伝え、ひきつけ、揺さぶり、動かすことができるのだろうか。 そこで、「伝える」「ひきつける」「揺さぶる」「動かす」プロの方へのインタビュー等をとおして、人々の自発性や意欲を生み出す秘訣について考えていきたい。

まずは、「原点はワクワクとの出会い」「手の届く範囲を広げていく」でもご登場頂いた建築家の大成優子さんに、作品を作るうえで重視していることについて伺った。 大成さんが、プロとして気をつけていることは、「受け手との共有」だった。

●私らしさを“わかりやすく”

大成さんが、作品を作る際に、いつも心がけていること。それは、「私らしいもの」を作ろうということ。「ただキレイなだけではなく、私なりの面白さや新しさのある提案をしようと常に心がけています。」

提案をする際の大成さんのポイントは、「わかりやすさ」だという。「専門用語を使って建築関係の人しかわからないような新しさを追求するというよりは、施主(顧客)のわかる言葉を使って、施主と共感できるところから新しさを目指したいと考えています。」 2007年の4月に開かれた個展「半径70cm」も、このような考え方の延長線上で生まれた。70cmとは、大成さんの腕の長さであり、すなわち「手の届く範囲」をあらわしているという。

Yuko Onari's Arts

「『テーブルはここにおいて、家具をあそこにおき、自分はそこにすわる』。家に住み、自分の場所をみつけていくという行為は、家を設計するということにつながっていると感じています。そこで、自分の場所をみつけていく際に手がかりとなるのが、文字通り手の届く範囲なのではないかと考えました。この個展では、日常の中で自分自身が感じている“人”と“モノ”と“空間”の関係を、手の届く範囲である半径70cmの重なりと捉えて表現を試みました。」

●主役は『住む人』

ただし、大成さんは、自分らしさの追及だけを重点においているわけではない。主役は、あくまで『住む人』である。そんな考えが、作品にあらわれたのが美術家であるいとこ夫婦の住居兼アトリエである「市川のアトリエ」の設計だ。この設計では、各部屋を切り分けせず緩やかなつながりをもたせることによって、住む人の自由な動きを生み出せるようにした。

「生活を共にするモノたちを扉の奥におしこんでしまうのではなく、自由なモノの分布によって、生活のアクティビティも自由に分布されるような状態を目指しました。空間と空間の関係性や、人とモノとの関係性に重点をおいたデザインとしています。」

●3つの世界との共有

このような作品作りを実現させるために大成さんが重視していること、それは3つの場面でのコミュニケーションだという。

1つ目は、『お施主(顧客)さん』とのコミュニケーション。「建物を建てるには時間もコストもかかるため、その分、お施主さんの思い入れや考えも強かったりします。抽象的な話ではなく、なるべく具体的な話をすることでお互いの意思疎通をはかり、気になるところはお互いが納得するまで話をして、検討をしながら進めています。」

2つ目は、『現場』とのコミュニケーション。図面を描く際には、綿密にきっちり描くことも重要だが、それよりも重要なのが現場に伝わる図面を描くことだという。きちんと現場の人間に考えが伝わらなければ、間違ったまま建物ができあがってしまう。「間違えそうなところや注意して欲しいことは、特にしっかり打ち合わせするようにしています。」

3つ目は、雑誌などを通じておこなわれる『世の中』とのコミュニケーション。「自分の作品や考えを、世の中にどのように伝えていくかも重要だと考えています。作品そのものは持ち運びできないので、写真、雑誌、展覧会などの媒体でどのように見せていくのがよいか常に模索しています。」

2007年12月21日
八田 誠(はった・まこと)
※本稿は執筆者の個人的見解であり、弊社の公式見解を示すものではありません。
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