一般的に、1つの建物が完成するまで短くても1年かかる建築家の世界では「一通り仕事を覚えるのにまず3年、それまでは、とにかく修行」と言われているという。大成さんは、「仕事をして、失敗をしながら覚えていった。初めて仕事についたときは、あたし、学校で何やってたんだろう」と思ったという。現場の仕事の密度、(大きなお金が動く)責任感は、学生にはなかった感覚だった。
事務所にとびこんだ大成さんに対して、妹島氏は育てる意識をもって接してくれた。若い子にも責任ある仕事を任せるという妹島氏の方針もあり、事務所にはいってすぐに7階建ての集合住宅の設計というプロジェクトを任されることになる。先輩がチーフとしてついてくれるが、実際に現場と打ち合わせをするなどの担当は大成さんであった。チーフから怒られながら、1つ1つ学んでいった。
4年半後に、妹島事務所から独立することになる。フリーの建築家が、仕事を獲得するためには、実体としての作品が重要となる。作品がないとアピールもできないからだ。そこで、多くの建築家は、親戚や友人などから仕事をもらうことがスタートとなる。もの(作品)ができると、それをベースに次の話が広がっていく。
大成さんの独立のスタートも、まずは「もの」をつくることからはじまる。独立して初めての作品は、実家の増築だった。「プラス・ワンルーム」と名づけられたこの作品は、第24回INAXデザインコンテストで入賞する。
続いて、事務所の先輩である長尾亜子さんと共同で築地にある高知のアンテナショップ「コウチ・マーケット」を手がける。築地市場の移転計画によって転換期に直面している築地において、業者だけでなく一般の購買客にも入りやすいような店舗を、ということで設計をした。この作品は、大手の建築事務所なども応募するというJCDデザイン賞2003において、大賞を受賞することになる。「受賞した2人が一番驚いた」そうだ。
最近では、美術家であるいとこ夫婦の住居兼アトリエ「市川のアトリエ」を設計している。さらに、次のステップとして、2007年の4月には、個展「半径70cm」を開催している。70cmとは、大成さんの腕の長さ、「手の届く範囲」をあらわしているそうだ。
現在は、建築家として活躍する傍ら、武蔵野美術大学で非常勤講師として教えている。「向き不向きもあるので、学生に対して、全員に個人でやることを勧めているわけではありません。個人でやることの楽しさや大変さ、その両方を私自身の生きた言葉で伝えることによって、各々が自分の道を考えるきっかけになってくれればと思っています。」また、講師の他に、展覧会のWEBレポーターなどもやっている。これらの直接設計を行わないような仕事も、建築を考える上では重要であり、全て設計に結びついている。
「今は、ものをつくっていること、そのものが楽しいです。仕事の規模の大小に関わらず、ひとつひとつの仕事を大切にし、常に新たなワクワクにチャレンジしていきたいと思います。」