地方自治体の職員採用は、試験制度を軸とする公務員採用制度により行われており、民間企業における採用方法とは大きく異なるものと認識されてきた。そのため、多くの学生は、就職先選択において公務員か民間企業に就職するか方向性を決めた上で、公務員試験・就職活動に臨んでいる。すなわち、学生は、公務員志望か民間企業志望か、いずれかの採用ルートを、就職活動初期の段階で選択せざるをえない状況となっている。
このような現状は、働く意識が類似する等、公務員に同質の人が集まってしまうという特徴を生み出しており、それを問題視する自治体も現れている。そのような中、多様な人材を獲得しようと、試験制度の改革を行う自治体が現れている。
佐賀県では、2008年より「行政特別枠試験」を導入している。民間企業志望の人もチャレンジしやすいように、試験を4月(通常より3ヶ月前)に実施し、アピールシートの導入や第1次試験を教養試験のみ(専門試験はなし)とするなど、民間企業に準じた形での試験を行っている。2011年の試験では、10名の定員に対し、756人の申し込みがあった(倍率75.6倍)。
また、求める人材像として、「志と情熱」、「生活者起点」、「達成志向」、「率先行動」の4つを掲げており、中でも、「志と情熱」にクローズアップした採用HPとしている(http://www.pref.saga.lg.jp/web/shigoto/_1157/ss-sigotokoyou/_34031/jinji.html)。採用HPは、普通にイメージされる公務員の募集とは異なったデザイン・内容となっていることが、佐賀県の取り組みの特徴となっている。
神奈川県では、2010年度より、「神奈川チャレンジ早期枠試験」を導入している。採用試験を、民間企業の就職活動と同じ時期に実施し、第1次試験(4月)は2ヵ月半早く、最終合格(5月)は3ヶ月半早い。また、従来1次試験で実施していた専門試験に替えて、人物面を重視した「自己PRシート」(記述式)を導入、また2次試験では、自己アピールの「プレゼンテーション」による評価を取り入れている。平成2010年は、2058名の応募があり、31名を採用している(倍率66.4倍)。
また、大阪府では、2011年の職員採用試験より、試験制度の大幅な見直しを行っている。警察職種を除く職種を対象に、年齢区分、試験日程、試験科目の変更を行っている。大学生が多い「22-25」歳区分では1次試験が5月上旬、6月下旬に最終合格者の決定と、民間企業の採用スケジュールに合わせた形となっている。試験内容については、択一問題と行政区分の記述式専門(法律・経済分野)を廃止し、小論文、エントリーシートを導入している。
佐賀県 | 神奈川県 | 大阪府 | |
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導入時期 | 2008年 | 2010年 | 2011年 |
制度名 | 行政特別枠試験 | 神奈川チャレンジ早期枠試験 | (名称なし) |
対象 | 10名程度募集 | 30名程度募集 | 行政職、技術職の全てが対象 |
試験時期(1次試験) | 4月 | 4月 | 5月 (「22-25」歳区分) |
特徴 |
・アピールシートの導入 ・専門試験の廃止 ・面接の比重が高い |
・自己PRシートの導入 ・専門試験の廃止 ・面接時に自己PRの実施 ・集団討論の導入 |
・エントリーシートの導入 ・択一問題の廃止 ・記述式専門試験の廃止(行政区分) ・小論文の導入 ・グループワーク導入 |
この他、市町村レベルでも、試験だけでなく、より人物重視の採用方法を取り入れる動きがみられる(宇都宮市、豊田市「自己アピール採用」など)。
これまで見たように、民間志望層の取り込むことを目標とした公務員試験制度改革には、「試験内容の改革(面接重視など、民間志望層が対応できる試験内容)」「試験時期の改革(民間の就職試験の時期に合わせる)」の2点が重要といえる。また、佐賀県の取り組みのように、求める人材像を明確にし、積極的に発信することも重要である。
さらに、どのような媒体を通じて民間志望者とコミュニケーションを図るかということも、多様な人材を獲得するためには重要なポイントとなる。公務員志望層の情報収集方法は、各自治体等の採用HPや公務員予備校が一般的となっている。これに対し、民間企業への就職活動を行っている学生は、「民間就職サイト(リクナビ、マイナビなど)」「大学」「就職イベント(就職支援企業主催)」「各企業のHP・説明会」など、多様な手段を用いて情報収集を行っている。民間志望者にも対応した試験制度を用意しても、その情報が対象者に届かなければ意味がない。多様な人材を呼び込むためには、試験制度の改革と共に、志望者へのPR戦略・コミュニケーション戦略もあわせて検討することが重要といえる。