東日本大震災により亡くなられた方のご冥福をお祈り申し上げますとともに、被災された皆様とそのご家族の方々に心よりお見舞い申し上げます。 また、被災地において、救助を始めとした災害対策、ボランティアに全力を尽くしていらっしゃる方々に、深く敬意と感謝の意を表します。
今回の地震では、首都圏は、一部の地域を除き、人的・物的被害は大きくはなかったが、震災や停電の影響で帰宅難民者や通勤困難者が続出するなどの問題が生じた。従来からラッシュタイムにおける通勤混雑の問題は指摘されていたが、首都圏への人口・機能の集中による災害時のリスクの高さが再確認されたといえる。
そこで、首都圏の通勤事情について、データから改めて検証してみたい。
国民の生活時間の配分及び活用方法を調査した「社会生活基本調査(総務省統計局)」を用いて、首都圏の通勤時間の特徴をみていこう。
図表1は、首都圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)及び、他の府県(サンプル的にいくつか抽出)の正社員の通勤時間を比較したものである。全国平均が67分なのに対し、首都圏の通勤時間はいずれも80-90分台となっている。人口が全国で真ん中の鹿児島県や最下位の鳥取と比較してみると、通勤時間は倍以上である。大阪府と比較しても、通勤時間が長いことがわかる。
人口 (都道府県順位) | 通勤時間 (分) | |
---|---|---|
全国平均 | − | 67 |
東京都 | 1位 | 84 |
神奈川県 | 2位 | 96 |
埼玉県 | 5位 | 91 |
千葉県 | 6位 | 94 |
大阪府 | 3位 | 77 |
長野県 | 16位 | 51 |
鹿児島県 | 24位 | 44 |
鳥取県 | 47位 | 43 |
首都圏の通勤時間の長さを、通勤時間の分布からも検証してみよう。図表2をみると、全国平均では通勤に片道1時間以上かかっている割合は1割に満たないが、首都圏では2割以上の雇用者が通勤に片道1時間以上かかっている。
全国平均 | 東京都 | 神奈川県 | 埼玉県 | 千葉県 | |
---|---|---|---|---|---|
自宅 | 1.4% | 1.4% | 1.3% | 1.6% | 1.5% |
30分未満 | 67.2% | 39.4% | 38.9% | 46.8% | 44.3% |
30分〜1時間未満 | 22.7% | 37.2% | 31.3% | 23.5% | 27.6% |
1時間〜1時間30分未満 | 6.5% | 17.4% | 21.1% | 20.3% | 18.1% |
1時間30分〜2時間未満 | 1.8% | 4.2% | 6.7% | 6.4% | 6.8% |
2時間以上 | 0.5% | 0.5% | 0.7% | 1.6% | 1.8% |
このように、首都圏の通勤時間の長さを確認したが、首都圏の通勤にはさらに大きな問題がある。それは、通勤時間が特定の時間に集中していることである。
図表3は、正社員の通勤時間帯を示したものである。朝の7-9時はいわゆる通勤ラッシュの時間帯であるが、首都圏では朝の7時半から8時の間に会社員の3~4割が通勤をしている。全国的にみても7時半から8時が通勤のピークではあるが、通勤時間の長い首都圏では、特にその時間に通勤する人が集中している。
また、首都圏では、帰宅時にも特徴がみられる。首都圏以外の帰宅時間は、17-18時をピークに減少していくが、首都圏では18時以降の減少割合がなだらかになっている。20時でも神奈川県、埼玉県、千葉県に住む会社員は、15%がまだ帰宅途中である。
これらのデータから、首都圏の通勤混雑は、「通勤時間の長さ」「通勤時間帯の集中」の2つの要因が組み合わさって発生していることがわかる。この2つの要因からなる通勤の混雑の緩和には、現在、電力需要における対策として言われているような時間的・空間的シフトが有効であるといえる。
まず、通勤時間帯の集中については、時間帯のシフトが有効である。特に、夏の電力不足問題と絡めて考えた場合、始業時間の前倒し、もしくは勤務時間帯のシフト(夜間時間との2交代制)などが有効といえる。
次に、通勤時間の長さについては、通勤距離の長さに起因するものであるから、この解消のためには、空間的なシフトが必要となる。こちらも、夏の電力不足問題と絡めて考えると、テレワークの推進などが有効な策といえる。