株式会社リベルタス・コンサルティング

『働くこと』を考えるための2つの座標(働くことについて考える(1))

バブル経済が崩壊してからの十数年、日本の労働環境は大きく変化を遂げた。日本特有のシステムといわれた終身雇用や年功賃金は既に過去のものとなった。就職氷河期を端とした就職競争の激化、ニートやフリーターが社会問題ともなった。最近では、企業の合併やM&Aも当たり前のものとなり、短期間で自分の働く環境が一変することも珍しくない。 今の時代は、個々人で働くことについての立ち位置を決めることを求められている時代といえる。そこで、何回かにわたって『働くこと』について考察してみたい。

働くのは、夢のためか、生活のためか

「働くこと」について考える時に、よく問われるのが「働くのは、自己実現や夢のため?それとも、生活のため」「野たれ死にをしてでも自分のやりたいことをやるか、安定を選んで夢をあきらめるのか」といった質問である。 特に若い時には、多くの人が、このような問いで悩んだ経験をもつ(もしくは現在も悩んでいる)のではないかと思う。だが、このような問いを立ててしまうことが、「働くこと」に関する悩みを深いものにしてしまうのではないだろうか。なぜなら、そもそも「自分のやりたいこと、夢」と「生活、安定」は、もともと異なる軸だからである。

自分軸と他人軸

ここでわかりやすくするために、「自分のやりたいことか、生活(お金)のためか」という問いを、図で表してみよう。

お金になること⇔やりたいこと

だが、この図は何かおかしくないだろうか。自分のやりたくない仕事(自分のやりたい仕事の反対)は、お金になる仕事ではないだろう。反対に、お金にならない仕事(お金になる仕事の反対)は、自分のやりたい仕事ではない。つまり、この問いは「自分のやりたいこと⇔やりたくないこと」と「お金になる⇔お金にならない」の2つの異なる軸から構成された質問なのである。

「自分のやりたいこと」は、自分の価値観にそった軸といえる(自分軸)。一方で、「お金になるか、稼げるか」は、他人(社会)からの評価できまるものである(他人軸)。これは、図2のようにあらわすことができる。

お金になること、やりたいこと

若い時に、安定を捨て自分のやりたいことをやると選んだ人(Cの領域)でも、その後、Aの領域にいくことは大いにある。一方、自分のやりたいことをあきらめて、生活(お金)のために働こうと考えた人(Bの領域)でも、仕事を続けているうちに、その仕事が自分にとってやりたいことになること(Aの領域)は良くあることである。

みえない自分軸

2つの軸を考える上でポイントなのは、お金という共通のはっきりした基準が存在する「お金になること(他人軸)」に対して、「自分のやりたいこと(自分軸)」は、共通のはっきりした基準が存在しないことである。

(多くのひとにとって)自分軸は、はじめは軸がみえていない。その人が、生きていくうちに、だんだんとみえてくる軸なのである。おそらく、新卒・就職活動の時期までに自分軸がはっきりしている人はごく少数であり、多くの人にとっては働いていくうちに、はっきりしていくものだと思われる。気をつけたいのは、自分軸がみえないということを把握していないために、他人軸(お金になること)が自分軸だと勘違いしてしまうことだ。そのうちに、本当に自分が何をしたかったのかわからなくなってしまう。

お金になること、やりたいこと

自分のやりたいことをみつける技術

では、自分軸は、どのようにみつけるものだろうか。日本では、「やらなきゃいけないことをやること」についての教育レベルは高く、どんな生き方してようが、その教育をうける機会がある。だが、「自分で考えて、自分のやりたいことをやる(みつける)」についての教育は、ほとんどなされてこなかった。「自分で考えて、自分のやりたいことをやる(みつける)」という技術を学ぶ機会が人生にあるかどうかは、運に左右されているところがある(近年、行われるようになったキャリア教育も、その本質は「自分で考えて、自分のやりたいことをみつける技術を教えること」といえる。ただし、就職テクニックの伝授に留まっているところも多い。)。

そこで、次回以降では、「自分のやりたいことをみつける」方法について、インタビュー等も交えながら考えてみたい。

2007年9月14日
八田 誠(はった・まこと)
※本稿は執筆者の個人的見解であり、弊社の公式見解を示すものではありません。
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