株式会社リベルタス・コンサルティング

地域と芸術(2) 楽しさは自分で発見する
〜『クラフトフェアまつもと』と『工芸の五月』〜

地域における文化芸術活動として、前回はリバプール市の欧州文化都市の例をみたが、今回は日本における事例を紹介する。

長野県松本市(人口24万人)でおこなわれている工芸を中心とした催し「クラフトフェアまつもと」と「工芸の五月」について、主催のNPO法人松本クラフト推進協会 竹内さん(クラフトフェアの立ち上げメンバーの1人)、倉澤さん(都市計画家)にお話を伺った。

仲間内で始まったイベントが、数万人規模にまで拡大

『クラフトフェアまつもと』は、毎年5月下旬に、松本市にある「あがたの森公園」で開催されている野外イベントである。全国から300組近い陶芸・ガラス・木工・金属・染織等のアーティストが集まり、工芸作品の展示・販売を行う。

クラフトフェアまつもとの始まりは、27年前の1985年になる。松本在住のクラフトマンの1人がイギリスで、もう1人がアメリカで、野外でのクラフトフェアを体験してきた。「この楽しさや開放感を、日本でも再現できないだろうか」という話になり、他のものづくりの仲間にも声をかけ、松本市のあがたの森公園で日本初のクラフトフェアを開催した。

最初は、仲間内で始まったイベントではあったが、口コミで評判が伝わり、だんだんと出展者、来場者が増えていった。27回目となる今年(2011年)は、1500組の出展応募(出展280組)、当日は大雨だったにも関わらず3万5千人の来場者(2010年は5万4千人)があるなど、大規模なイベントに拡大している。

「自分で考え、やりたい人がやりたいことをやる」

竹内さんは、クラフトフェアが20年以上も続いている理由を「楽しかったから」と語ってくれた。当然、何年も活動していると大変な時期もあったが、「クラフトフェアの2日間は気持ちよく、楽しかった。また、同じ気持ちを体験したい」ということが長く続く原動力となったと語る。

クラフトフェアまつもとの基本精神は、「やりたい人がやる」。そのため、普通のイベントと比べて、「親切さがない」と言われることも多い竹内さんは語る。来場者から「どこに何が出展されているかわからない」といった声や、出展者からも「どこに出していいかわからない」という声が聞かれることも多いという。

これは、出展スペースが予め決められていないという理由がある。クラフトフェアの展示は「出展者の自分の表現として、自分で考えて出展場所も決める」こととしている。出展者が全て自分で用意を行い、会場のあがたの森のどこに出展のテントを構えるか、全て出展者の考えで決める。「場所は、自分で見つける。自分で考えて下さい。」

「やりたい人がやる」。このような考えは、松本クラフト推進協会の進め方でも同様だという。きっちりとした運営マニュアルはなく、担当が自分の考えで、いろいろと行動を起こすようになっている。「だいたいこんなイメージで、あとはお願いね」「思うようにやってみれば」といった指示が飛び交うなど、参加者の自主性が問われる。

クラフトフェアから興味をもって「ボランティアをしたい」と言ってくる人も多いというが、その際には「(あなたは)何をやってみたいですか」と聞くという。「(その人が)やってみたいことをやって『ああ楽しかった』と思ってもらえることが、ここでの報酬になります。」

「創作のエネルギーは世界を変える」

2011年のクラフトフェアは、クラフトフェア実行委員にとっても、1つの転機でもあったという。クラフトフェアの規模は年々大きくなり、メンバーの負担も大きくなっていた。「やりたい人がやる」というのが基本精神ではあるが、スケジュールや目の前の仕事に追われて、なぜクラフトフェアをやっているのか考える時間がなくなってきていたという。

そのような時、3月11日の震災があった。メンバーから「このままクラフトフェアをやっていいのか」という声もあがり、皆でこれまでにない話し合いも行われた。

この話し合いの中で、『創作のエネルギーは世界を変える』といったメッセージが生まれるなど、「クラフトを楽しむことをやめない努力」「楽しむことで希望が生まれる」といった、自分たちが活動を続けていこうとしている原点の再認識が図られたという。

地図を見ながら、「自分で発見する」

近年では、クラフトフェアだけでなく、新たな試みが始められた。それが、松本の街中がギャラリーとなる「工芸の五月」である。

この催しは、3年前からは松本クラフト推進協会や松本市で構成されている「工芸の五月」実行委員会で実施されており、5月の1か月間、松本を中心に美術館、博物館、ギャラリーなどの会場で、50以上の工芸の企画展やワークショップが開催されている。なお、クラフトフェアも、工芸の五月の最終イベントとして位置づけられている。

「工芸の五月」の案内図

工芸の五月の企画に携わった倉澤さんは、「ただのイベントやお祭りに終わるのではなく、普段の街をブラッシュアップする」というイメージをもって企画したという。「各展示も、参加者が『自分で発見して、みてもらう』という形にしました。」。美術館や博物館での催しもあるが、その多くは街中のギャラリーやクラフトショップで開催されている。どこで企画が行われているかを案内するマップ・冊子は用意されているが、1つ1つの展示は、普段の街の中に溶け込むようになっている。

「集客を目標にはしていません。ただのイベントではなく、その活動が先につながるもの、継続して行われるものにしたいと考えています。重要なのは、経験してもらうこと」と倉澤さんは語る。

毎年、実験を繰り返している

以前、こちらのレポートにおいて、働く際の「自分で考えて、自分のやりたいことをやる(みつける)」ことの重要性を述べたことがあったが、地域における芸術文化活動でも同じことだということが今回の事例からみえてくる。

インタビューでは、竹内さんから「自分で考える」「やりたい人がやる」ということが、何度も語られた。クラフトフェアは、やってみて初めて見えてくることも多く、「まず、やってみる」ことを重視しているという。「クラフトフェアは25年以上たっても、これが完成という形があるわけではなく、毎年、実験という気持ちで取り組んでいます。」

2011年7月22日
八田 (はったまこと)
※本稿は執筆者の個人的見解であり、弊社の公式見解を示すものではありません。

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