株式会社リベルタス・コンサルティング

時系列データの季節調整法

季節調整とは

社会経済や経済の動向等を把握するため、売上高や支出額など様々な統計が官公庁から発表されている。 こうした経済指標や時系列データは、当然、細かい増減や傾向的な増加ないし減少を示すが、同時にボーナスの時期に増える(家計支出など)、夏に増える(ビールの売上など)といった季節の変化や社会的慣習・制度等の影響も受けるものである。

しかし、たとえば平日に比べて休日に増える傾向をもった統計データについて、ある月に前月よりも祝日や休日が多かった場合、たとえ結果の数値が前月よりも高かったとしてもそれだけでは前月よりも高くなったと単純に判断することはできない。 そのため、こうした季節的な要因、すなわち季節変動を元のデータ(原系列)から取り除くことを季節調整という。

時系列データから季節要因を除去するにあたっては、ごく単純には前年同月の値と比べるという方法もあるが、1年前の数字と比較しているため、データ増減の直近の転換点を把握できないといった問題もある。 そのため、データの変動を傾向変動(TC)、季節変動(S)、不規則変動(I)の3つに分解して考え、このうち季節変動の成分を除去するために移動平均をとる等の形で季節調整を行う方法が一般的である。

季節調整法としては日本でもMITI法、EPA法、DECOMP等といった方法が開発され、利用されてきたが、現在では米国センサス局の開発したX-11またはその改良版であるX-12-ARIMAを利用して季節調整を行っている事例が多くなっている。

X-12-ARIMAの概要

X-11は米国センサス局が1965年に開発した季節調整法であり、移動平均を繰り返し適用することで原系列を傾向変動、季節変動、不規則変動に分解し、季節変動を除去する方法である。移動平均をとる際には中心移動平均(各地点の前後のデータを用いた移動平均)をとるが、時系列データの直近部分については将来の値がないため、後方移動平均(データ最終期より以前のデータを用いる)をとる。そのため、データ直近部分の季節調整済み系列が不安定になる、すなわち新しいデータが追加された際に季節調整済系列が大きく改訂されてしまう場合がある。

これらの問題に対して改善を加えるとともに、異常値や曜日変動の調整等の改良を行う形で開発されたのがX-12-ARIMAである。X-12-ARIMAでは、原系列を曜日変動や異常値の回帰分析で表現できる部分とARIMAモデルで説明できる部分に分けたREGARIMAモデルで推計を行い、後者を用いて区間外のデータも補完した事前調整済原系列を作成する。この事前調整済原系列に対してX-11法による季節調整を行うのがX-12-ARIMAの特徴であり、そのために直近の値に対しても中心移動平均をとることが可能となるほか、異常値や曜日変動の調整も行えるものとなっている。同時に、原系列をどのようなモデルで表現するか等のオプションについて十分に検討することが必要となるため、季節調整結果について検討を行うための事後診断機能も備わっている。 このことからわかるとおり、仮に事前調整をまったく行わなければX-12-ARIMAの処理結果はX-11と同じものとなる。

X-12-ARIMAの構成
出所:日本銀行『「X-12-ARIMA」操作マニュアル 概要編』1997年2月より。

X-12-ARIMAを利用した季節調整の例

さて、ここで実際の統計データを用いて季節調整を行ってみる。サンプルとして商業統計による小売業の商品販売額について1992年1月から2009年12月の月次データを用い、季節調整前の原系列およびX-11、X-12-ARIMAによる季節調整を行った結果を以下に示す。

小売業商品販売額の原系列および季節調整値
注:X-12-ARIMAについては、ここではREGARIMAモデルを(0 1 1)(0 1 1)、曜日調整および月の長さの調整を行うものとし、予測期間を24期としている。実際にはAIC基準やデータの性質などに合わせて検討する必要がある。

原系列には毎年12月に非常に多くなり、1月、2月に落ち込む傾向があるなど、明らかに季節的要因の影響を強く受けるとみられる動きを示している。 季節調整を行うことにより、こうした季節的な大きな変動は消失し、なだらかな推移を示す結果となっている。なお、季節調整済系列ではX-11、X-12-ARIMAのどちらでも1997年2、3月に大きく増加し、4月以降に減少しているが、これは97年4月に消費税率が5%に引き上げられたことによる駆け込み需要と反動減と考えられる。これは季節的な要因によるものではないため、季節調整後の系列にこうした傾向がみられるのはむしろ当然といえよう。

季節調整法による結果の違いに着目すると、X-11、X-12-ARIMAの間には大きな違いはみられないが、X-11の結果には1996年や2004年、2008年の2月などに若干のスパイクが生じており、X-12-ARIMAの方がよりなだらかな推移を示している。原系列をみると2004年や2008年は2月の落ち込みが他の年よりも若干小さいため、X-11の結果はその影響と考えられるが、ご存じのとおり96年、2004年、08年はうるう年であるため、2月は他の年よりも1日長くなっている。ここで示しているX-12-ARIMAの結果は月の長さの調整も行うよう設定しているため、うるう年の影響も除去した、より好ましい結果になっているといえよう。

さらに、データが追加された際の季節調整結果の安定性をみるため、データの期間を(1)1992年1月から2007年12月まで、(2)1992年1月から2008年12月まで、(3)1992年1月から2009年12月まで、と変更を加えつつ、X-11およびX-12-ARIMAによる季節調整を行い、「’08年までと’07年までの差」(=(2)−(1))、「’09年までと’08年までの差」(=(3)−(2))をプロットしてみたものが下図である。

データ期間を変更した季節調整結果

今回のデータではX-11とX-12-ARIMAの結果には大きな違いはみられていないが、2004年以降の足元の差の最大、最小値がやや小さくなっており、期間の変更による改訂度合いがやや小さくなっている。

まとめ

現在では、官公庁の統計で季節調整を行う際には、ほとんどの省庁でX-11またはX-12-ARIMAが利用されている。また、X-12-ARIMAにはARIMAモデルの形式のほか様々な推計オプションが用意されているが、どのような形で季節調整を行ったかについても報告書等に記載され、公表されている。これは統計審議会等での議論を踏まえ、統計の透明性の確保や利用者の利便性向上をはかったものであり、総務省では各省庁の統計で用いられている季節調整法についてとりまとめも行っている。ご興味のある方は併せて参照されたい。

2010年8月20日
萱園 理 (かやその・おさむ)
※本稿は執筆者の個人的見解であり、弊社の公式見解を示すものではありません。

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